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学生を死に追いやった一橋大学アウティング事件のまとめ

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アウティングとは?

 アウティング。一般的にはあまり聞きなれない言葉ですが、これは「ゲイやレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー(LGBT)などに対して、本人の了解を得ずに、公にしていない性的指向や性同一性等の秘密を暴露すること(Wikipediaより抜粋)」という意味です。

 要は、本人が秘密にして欲しかったことを勝手にバラす訳ですから、社会規範上の観点から見ても褒められる行為とは言えません。

あまつさえ、LGBT当事者にとって第3者にカミングアウトをするということは、清水寺の舞台から飛び降りるくらいの覚悟が必要なことですから、アウティング被害を受けた人が抱え込む怒り、悲しみ、苦しみは想像を絶するものがあります。

法律的な解釈

 そもそもアウティングは、法的に解釈した場合どこに問題があるのでしょうか?

 性的指向や性自認は、個人の属性に関する情報と介されるため、個人情報という取り扱いになります。

当然、個人情報を公開するかしないかという判断は、本人にしかできません。しかし、その個人情報を本人の了承なしに公開してしまうのですから、俗に言われる「プライバシーの侵害」ということになります。

 民法では、第709条において「故意又は過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」とあります。

 過去には、本人の了承無しに、当事者が写っている写真をツイッター上に勝手に掲載したことで、肖像権およびプライバシーの侵害があったとして争われた事例がありました。

この裁判では原告側が勝利し、約50万円の損害賠償請求が認められました。

アウティングとは、正に「プライバシーの侵害」であり、民法第709条に抵触している可能性があると解されます。

アウティング被害の相談件数

 セクシャルマイノリティ専門の24時間電話相談受付チャンネルである「よりそいホットライン」によると、データの集積を始めた2012年から2017年までの6年間で、アウティングに関する相談は110件寄せられています。

さらに、顕在化していない件数を考慮すれば、実質的な被害件数はこれの20倍以上になると言われています。

 全国で多発するアウティングですが、数あるアウティング被害の中で最も有名な事件が、2015年に発生し、男子大学生が自殺したことで社会的大問題となった「一橋大学アウティング事件」ではないでしょうか?

一橋大学アウティング事件の経緯

(1)告白

 一橋大学法科大学院の学生であったAは、男性でありながら男性に恋愛感情を抱く「ゲイ」でした。

Aは、家族をはじめ親しい友人に対してもそのことをずっと隠して生活していました。

 法科の学生たちは、難関の司法試験合格を勝ち取るため、お互いに切磋琢磨する機会が多く、学生たちの間では必然的に団結が強まり、お互いがより親密になりやすいという特徴があります。

そんな中Aは、同級生であり同じクラスの男子学生Bに恋愛感情を抱くようになります。

 ある日、気持ちを抑えきれなくなったAは、Bに告白をすることを決心しました。Aは、Lineにおいて「はっきり言うと、俺、好きだ、付き合いたい」とメッセージをBに送りました。

 メッセージを受けたBは驚きます。

Bは、恋愛対象が女性であるため、男性であるAからの告白を受け入れることができません。そしてBは、友人C(女性)に、今後の対応について相談します。

 その時Cは、「『友人としてなら好きと』という返事をするしかいない」というアドバイスをしています。

 Bは、Cからのアドバイスの通り、「付き合うことはできないが、これからもいい友人でいて欲しい」という旨のメッセージを送ります。

また、突然告白をしたことついて謝罪するAに対し、「LGBTについては一定の理解があるので気にしなくていい」というニュアンスのメッセージも送っています。

 Aは、恋が成就しなかったことに悲しみを感じつつも、自分の感情を気遣ってくれるBに感激し、「ありがとう」「Bに言えて良かった」など感謝の言葉を送っています。

(2)突然のアウティング

 事態が急変したのはその3ヶ月後でした。

なんとBは、クラスメイト9人からなるLINEグループに「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめん」と書き込んでしまいます。

 Aは、この突然のアウティングにショックを受け、心身に変調をきたすようになります。

授業などでBと一緒になると、吐き気や動悸が生じるなどのパニック障害の発作が起こるようになってしまったのです。

そして、心療内科を受診した結果「不安神経症」と診断されます。

(3)投身自殺

 そして2015年8月24日、ついに悲劇が起こります。

 授業中にパニック障害の発作を起こしたAは、大学の保健センターに搬送され、治療を受けます。

発作が落ち着き、「必修授業なので教室に戻る」と言って保健センターを出たAでしたが、二度と教室に戻ることはありませんでした。

Aは、グループLINE上に「Bが弁護士になるような法曹界なら、もう自分の理想はこの世界にない」と書き残し、大学構内にあるマーキューリータワー6階から投身自殺しました。

(4)なぜBはアウティングしたか?

 Aの告白後も、「良き友人」同士でいることで話がついたはずが、なぜBはアウティングをしたのでしょうか?実は、Bにとって止むにやまれない理由がありました。

 告白後、BはAから

 ・ 不自然にボディタッチされる

 ・ 誘ってもいないのに食事に付いてくる

 など、セクハラともとれる積極的な接触行為を受けたと後に証言しています。

しかし、Aがゲイであることを周囲に打ち明けられないBは、このことを誰にも相談することができず、思い悩む日々が続きます。

そして精神的に追い詰められたBは、自救行為としてアウティングという手段を選んだのです。

(5)遺族の訴訟

 息子の死を受け、Aの遺族はBに対し民事訴訟を起こしました。裁判では、アウティングによりAを自殺に至らしめたBの責任を追及する原告側に対し、原告側は、精神的に追い詰められた状況を打開するには他に方法がなく、B正当な理由があったと主張し、両者は真っ向から対立することになります。そして約2年もの間、法定で争われることとなります。

 この裁判は、2018年6月、原告側と被告側が和解したことにより終結しましたが、具体的な内容については明らかにされていません。

※Aの遺族は、Aの自殺は大学側の対応にも責任があるとして、一橋大学に対しても民事訴訟を起こしていますが、Aの自殺は予見できず、大学側に安全配慮義務違反は無いとし、原告側の訴えを棄却しています。

(6)社会に及ぼした影響

 この事件は、大きな社会的反響を呼び、SNS上でも活発に議論が行われました。

そして2018年4月、一橋大学の所在する国立市では、「国立市女性と男性及び多様な性の平等参画を推進する条例」(俗に言う「アウティング禁止条例」)が施行されることとなりました。

 同条例第8条第2項には、「何人も、性的指向、性自認等の公表に関して、いかなる場合も、強制し、若しくは禁止し、又は本人の意に反して公にしてはならない」と記載されております。

まとめ

この事件をきっかけに、LGBTに関する認知度は飛躍的に広がりました。

しかし、「本当にこれでよかったのだろうか?」という疑問が残ります。

アウティング禁止条例が制定されたということは、LGBTを「特別視」していることに他なりません。

この事件の本質は、LGBTに対する差別にあるものと私は考えています。LGBTを否定的に捉えているからこそ、Aはアウティングに絶望し、Bは精神的に追い詰められることになったのです。

LGBTであることは、決して特別なことではなく、「普通」のことであるという認識が広まらなければ、アウティングに苦しむ人々は無くならないことでしょう。

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