トランスジェンダーが未治療でいる理由
トランスジェンダーと性適合手術
トランスジェンダーとは、心の性と身体的な性が異なる人のことをいいます。
そして心と身体の性が一致しないというこの状況は、当事者にしか分かりえない悩みや不安を本人に与える場合があります。
例えば日常生活では、トイレや更衣室を使用する場合において、心の性と異なる場所の使用を強要される、学校や会社から貸与される制服に違和感を覚える、などがあります。また、恋愛面に関しても、心の性と同性の人が言い寄ってくる、好きになった人が異性愛者であり恋愛対象として見てもらえない、などがあります。
このような事情から、心と身体の性別を適合化する性適合手術を希望するトランスジェンダーが後を立ちません。ところが、手術をせずに未治療のまま生活をしているトランスジェンダーが数多く存在している、という現状があるのも事実です。
一体なぜ、彼・彼女らは手術を受けないのでしょうか?
今回は、トランスジェンダーが未治療でいる理由について深堀していきます。
未治療でいる3つの理由
(1)親からもらった身体を大切にしたい
トランスジェンダーの中には、「親からもらった身体を大切にしたい」という理由により敢えて手術を受けない、という考えを持つ人たちもいます。
性適合手術というと、以下のような施術を行うことが一般的です。
男性から女性
→ 睾丸及び陰茎の切除
→ 整形による骨格の変化
→ 喉仏の切除
→ ホルモン治療を行う場合、乳房の張り、体毛が薄くなる、精神的に不安定になるなどの影響
→ 膣形成手術を行う場合、皮弁法(陰茎除去後の周囲の皮膚を利用)及びS状結腸法(結腸により膣を形成)
女性から男性
→ 乳房の切除
→ 子宮卵巣摘出
→ 膣閉鎖
→ ホルモン治療を行う場合、月経の停止、体毛が濃くなる、声が低くなる、筋肉質になるなどの影響
→ 陰茎形成手術を行う場合、尿道延長術
このように、性適合手術を受けるということは、自分の身体を不可逆的なまでに手を加えてしまうことになるのです。
同じ理由により、自分の耳にピアスの穴を空けたくないという人もいるくらいなので、大規模に身体に変化をもたらすような手術はもっての他ということなのです。
ただ、価値観は人により様々ですので、手術を受ける受けないについて正解というものはなく、本人がそれを許容するかどうかの問題となります。
(2)パートナーからの希望
中には、パートナーからの希望により性適合手術を受けていないというトランスジェンダーもいます。特に多いのは、「出産」が関わる事例です。
性適合手術を行った場合、外見は希望する性別の特徴に限りなく近づけることができますが、生殖機能だけは備えることができません。
子孫を残す手段として、別の母体を利用した代理出産がありますが、パートナーに産んでもらいたいと希望するトランスジェンダーも少なくないのです。
他にも、声が変わってしまうと全くの別人と会話をしているような感覚になる、できるだけそのままのパートナーでいて欲しい、という意見もあります。
(3)金銭的負担
性適合手術は、莫大な手術料がかかります。
2018年から性適合手術が保険適応対象となったことにより、金銭的負担は減ったものの、手術前に受けるホルモン治療(保険対象外)など総合的に見れば、かなりの高額になってしまう場合がほとんどです。
また、施術を開始してから終了まで長期間を要するため、途中で費用が払えなくなってしまった場合、施術を中断せざるを得ない状況に陥る可能性もあります。
まとまったお金と施術のタイミングが合致しなければ、なかなか踏み切れない性適合手術。先延ばしにしているうちに、精神的に参ってしまい、手術を断念してしまうという残念なパターンも存在するのです。
まとめ
以上のように見てみると、手術を受けない理由については、その人の人生模様によって様々であることが分かります。
このような現状を見ると、自分の意志により手術を受けない人に関しては本人の価値観を尊重するとしても、金銭的な理由などにより手術を受けたくても受けられない人がいるという状況は、一刻も早く解消して欲しいと思うのです。
今後、LGBTに関する理解はさらに深まっていくものと思われます。その時、現状にどのような変化をもたらしてくれるのか、注目していきたいと思います。